2020年、浜松産の木質ペレット燃料「てんりゅう」の生産、販売が静かに終了しました。理由はさまざまありそうですが、設立当初の計画を大きく下回る年間200〜300トンの生産量では、事業として採算が合わなかったというのが一番の理由だと考えられます。
「地元の森のエネルギーで暖をとろう」をコンセプトに掲げるキビカが、「てんりゅう」に代わり選んだのは、天竜川の上流域・長野県伊那市にある上伊那森林組合が生産する木質ペレット燃料「ピュア1号」でした
「ピュア1号」は、上伊那地域のカラマツ、アカマツの間伐材をまるごと使った全木ペレット。品質が安定し、発熱量が高く、燃焼灰が少ないため、2012年、日本木質ペレット協会から最高品質である「木質ペレットA」を全国で初めて認証されました。
カラマツの紅葉が終わった11月下旬。「ピュア1号」がどのように生産されているのか、上伊那森林組合のバイオマスエネルギー工場を訪ね、工場長補佐の竹内一晴さんにお話しを伺いました。
上伊那の間伐材で作られた
高品質な木質ペレット燃料
浜松市内から中央自動車道を使って3時間30分ほど。上伊那森林組合がある伊那市は、南アルプスと中央アルプスにはさまれた、人口6万6000人ほどの街。50kmほど北にある諏訪湖から始まる天竜川が市内を南北に流れ、伊那谷と呼ばれる盆地に田畑が広がるのどかな景色をつくり出しています。古くから交通の要衝としても知られ、宿場町として栄えてきました。
スギやヒノキが美しい天竜の山は、冬でも青々としていますが、上伊那の山はカラマツが多く、黄金色に紅葉した後は葉が落ち、山肌が見えます。澄んだ冬の空にカラマツの細い枝が映える、浜松とは違う山の風景が印象的でした。工場に到着すると、何千本というクロマツやアカマツの丸太が所狭しと積まれています。
「上伊那では戦後、カラマツが植林され、合板やベニヤ板などに使われていました。長野県の人工林の約55%がカラマツなんですよ」と教えてくれたのは、工場長補佐の竹内一晴さん。スギやヒノキと比べ、出荷するまでの年数が30〜40年と短いのも、カラマツが好まれて植林された理由の一つだそう
「ピュア1号」の材料のほぼ100%が上伊那の間伐材。曲がりや規格外など、森林整備で発生したものだからトレーサビリティ(流通経路)が明確で、安心して使えます。「地元の間伐材のみを使い、接着剤を使った合板などは使っていません。国産の間伐材だけで木質ペレット燃料を作っているのは、日本全国でも弊社だけだと思います」と竹内さん。
スギやヒノキの木質ペレット燃料と比較して、発熱量は4,600kcalと高く、さらに、10kgの木質ペレット燃料から灰として残るのはたった20gほどと燃料効率も抜群。オガコや製品の水分検査、製品の機械的耐久性検査など、1日に何回も品質チェックを行っているそう。品質の良さは口コミで広がり、現在は全国各地から注文が入るほどに。
地元で育った木を
余すところなく使う
上伊那森林組合のバイオマスエネルギー工場では、1時間にペレットを1トン生産できる成型機を使い、2交代制で年間3,500トンを生産しています。竹内さんに工場を案内していただきました。
敷地いっぱいに保管されるカラマツとアカマツの間伐材。木部が赤っぽいのがカラマツで、白っぽく見えるのがアカマツ。「ややこしいですね」と竹内さんが笑う
丸太をフォークリフトで運び、オガコ(原材料)にする。長さ5メートルを超えたり、曲がったりしたものは入らないのでチェーンソーで切断。振動するふるいにかけ、3mm以下になるまで、何度も機械に戻し粉砕。
オガコはベルトコンベアで運ばれ、樹種別にストックヤードで保管。約3日分をストックできる。写真の左側がアカマツで、右がカラマツ
ホイールローダーで混合器にオガコを投入。製品を均一にするため、カラマツ7、アカマツ3の割合で混ぜながら、パイプラインで隣の工場へ。
3層式のロータリードライヤーでオガコを乾燥させる。800度の熱風に15分間さらし、30%あった水分量を10%ほどにする。熱風炉の熱源は、製造過程でできた規格外ペレットを使用している。
ペレットミル専門メーカCPM(カリフォルニア・ペレット・ミル)社の成形機を使い、オガコを圧縮しながらペレットを成形。できたばかりのペレットを見せてくれる竹内さん。
80度と熱々のペレットを1時間ほどかけて冷却し、ふるいにかけ商品を選別。直径6〜12mm、長さ1〜2cm以外のものは除去され、乾燥用の熱源として利用される。
工場内の検査室で、オガコや製品の水分量や耐久性を毎日、数時間おきにチェックする。
10kg入りは自動で袋詰めされ、ロボットによってパレットに並べられる。500kg入りフレキシブルコンテナ詰めも用意。1日の生産量は14トン。
1500トン貯蔵できる大型貯蔵庫で出荷を待つ。製品はロットで管理され、万が一問題があってもさかのぼって調べることができる。
山と海をやさしくつなぐ
上伊那からの贈りもの
「創業当時の生産量は1750トンほどと今の半分でした。ずっと赤字続きでしたが、品質にこだわり続け、6年ほど前に生産量が2,000トンを超えてやっと黒字化できました」と苦しかった時代を語る竹内さん。日本には生産量1,000トン未満のペレット工場が多く、浜松のケースのように採算がとれず閉鎖される工場も少なくないと言います。
ここ数年、全国的に木材を大量に使うバイオマス発電がブームなこともあり、木材の価格が値上がりし、確保が難しいと頭を悩ませます。年間3,500トンのペレット燃料を作るために必要な木材は7,000トン。運営母体である上伊那森林組合の取扱量は年間2〜3万トンあるため、今すぐに木材が足りなくなることはないそうです。「古くなった機械を入れ替えたので、生産量を増やし、需要に応えていきます」と、竹内さんが力強く話してくれました。
コーヒー豆やチョコレートなどをはじめ、時計や文房具など、「産地やトレーサビリティが明確」、「環境負荷が少ない」、「適正な価格で取引される」といった、持続可能で、エシカルな商品を買う人が増えてきました。「買うことは、その商品を支持することだ」と言った人がいました。
インターネットなどで手軽に買える木質ペレット燃料には、原材料の産地が不明で、放射性物質が含まれていたり、品質が悪くペレットストーブが故障する原因になったりするものもあります。
天竜川を通じ、上伊那地域とゆるやかにつながる浜松市。北遠の山の向こう、上伊那で作られたペレットに火をともすとき、私たちはどのようなことを思い浮かべるのでしょうか。黄金色に紅葉するカラマツ、山々の間を流れる天竜川……。難しいことは少しだけ横に置いて、この木質ペレット燃料が生まれた風景を思い浮かべてみるのはどうでしょうか。「ピュア1号」は、上伊那から私たちに届く、自然の贈りものなのかもしれません。